COLUMN

同一労働同一賃金の実現へ、
待遇格差の是正を

水町 勇一郎 氏
東京大学社会科学研究所 教授

水町 勇一郎 氏

全ての待遇について求められる洗い直し

パートタイム・有期雇用労働法が2021年4月から中小企業にも適用され、同一労働同一賃金への流れが一層進むことになります。施行の背景には、正社員と短時間労働者・有期雇用労働者(非正規労働者)との格差が開きすぎていたことがあります。コストが安く、調整対象にしやすい非正規労働者は労働者全体の4割を占めますが、フルタイムで働いていたとしても、低い処遇のままの人が増えています。非正規労働者にも適切な賃金・手当を支払い、成長と分配の好循環を回すことが、同法の大きな目的です。

同法のポイントは3つあります。1つ目に日本の場合、諸手当や福利厚生は生活保障の意味合いもあり、正社員に手厚い一方、非正規労働者には適用されにくい現状があります。8条では正規・非正規間の「不合理な待遇」を禁止しており、各企業は基本給、賞与、通勤手当など待遇の一つひとつについて、給付目的に応じて、格差を付けるのが不合理ではないかを判断しなければいけません。中小企業も法の施行に備えた準備が必要です。

ただ、各企業が一つひとつ判断するのは、難しい場合があるでしょう。47都道府県には働き方改革推進支援センターがあり、セミナー開催や専門家の派遣もしています。無料で利用できるので、活用してほしいです。

事業者に格差の説明義務が課せられる

2つ目に知っておきたいのが、厚生労働省が定めた同一労働同一賃金ガイドラインです。ガイドラインには格差を付けることが問題となる例とならない例を具体的に書いています。それを参考にしながら、待遇を決めることが求められます。

3つ目としては、事業者に対し、正規と非正規で待遇が異なる場合、非正規労働者から求められれば、内容と理由を説明する義務が課せられました。基本給、賞与、退職金、各種休暇などについて、正社員と待遇の違いがあるか、そして違いがある場合には理由を示さなければいけません。

例えば、正規、非正規に関わらず、自宅から会社まで交通機関で出社しているとすれば、通勤手当に格差を設ける理由にはなりません。厚生労働省発行のワークシート*では、基本給から各種手当まで、支給の趣旨を書き込めるようになっています。施行までに準備を進め、待遇の違いについて説明を求められたときは、口頭だけでなく、ワークシートを使うのが望ましいでしょう。

待遇改善が企業の成長につながる

パートタイム・有期雇用労働法の施行で、正規、非正規を問わず、働きぶりに見合った給与や手当をバランスよく支払うことが求められます。諸手当や福利厚生で、正規と非正規に大きな格差があれば、良い人材は集まりません。中小企業も、専門家の知識を借りるなどしながら改革を進めないと、人が集まらなくなり、ビジネスが成り立たなくなります。

同一労働同一賃金が進む中で、非正規労働者の雇用契約書に賞与の支払いを明記する会社が広がっています。全体の待遇の底上げが進むと、より魅力的な職場が労働市場で選ばれ、逆にそうでない職場環境からは転職者が出るのではないでしょうか。

今後、M&Aなどで中小企業の再編が進む可能性があり、数年後を見据えた人材や教育への投資が大切になります。以前は経営者から「非正規労働者にも、正社員と同じように手当を出したら倒産してしまう」という不安が聞こえましたが、そういう声は減ってきています。短時間勤務や有期雇用でも優秀な人材を集めるための待遇改善は必須です。多様な人材を獲得して、新しいビジネスモデルを築こうという意識を持つ企業は成長し、コストを理由に格差是正に動かない会社は、淘汰される恐れがあります。

「今までの待遇を倍にする」といった極端なことが求められているわけではありません。一つひとつの手当について、不合理な格差が無いか洗い直す。そして、無駄なものについては、不利益変更にならない工夫をしながら、より大切な手当の方に原資を充てて、配分を見直すことが大切です。パートタイム・有期雇用労働法を改革のきっかけにして人材活用のデザインを描き、働き方改革を進めてほしいと願っています。

厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」
*厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」